①完全な創作:ジャックとローズの物語
まず結論から言うと、物語の中心にいるジャック・ドーソンとローズ・デウィット・ブケイターは、どちらも完全に架空の人物です。2人の身分違いの恋、船首でのあのシーン、そして最後の別れ――物語の核となるラブストーリーは、すべてジェームズ・キャメロン監督による創作です。
ただし、キャラクターの造形には現実のモデルがいます。ローズについては、キャメロン監督自身が、アメリカの芸術家ベアトリス・ウッドから着想を得たと語っています。上流階級の家庭に育ちながら、自由な生き方を選んだという経歴が、ローズと重なる部分です。
なお、実際のタイタニック号の乗客名簿には「J・ドーソン」という名前が残っているそうですが、これはジョセフ・ドーソンという石炭作業員で、映画のジャックとはまったく無関係な偶然の一致です。

②実在した人物と、実際に起きた出来事
一方で、映画に登場する主要人物以外の乗客・乗組員は、そのほとんどが実在の人物です。特に印象的なのが以下の2つです。
- ベッドで抱き合ったまま最期を迎える老夫婦:実在したイジドー・ストラウスとアイダ・ストラウス夫妻がモデルです
- 沈みゆく船内で演奏を続けた8人の音楽家:実際に、乗客を落ち着かせるために演奏を続けた楽団が存在しました
また、沈没事故そのものの経緯も、かなり忠実に再現されていると言われています。氷山に衝突しても大半の乗客が危機感を持っていなかったこと、避難が女性と子ども優先で行われ、男性の生存率は2割ほどだったこと、船体が前後に折れて沈んでいったこと――これらはいずれも史実に沿った描写です。冒頭の海底シーンに至っては、本物のタイタニック号の映像が使われています。

③一番グレーな部分:実在の人物が、史実と違う描かれ方をしたケース
この記事で一番押さえておきたいのがここです。「架空の人物か、実在の人物か」という単純な二択だけでは説明できない、微妙な部分が存在します。
代表的なのが、一等航海士ウィリアム・マードックの描写です。映画では、混乱する乗客に対して発砲し、その後自ら命を絶つ人物として描かれています。しかし、この描写は史実として確認されているものではないとされ、実際の遺族から抗議が寄せられたとも言われています。
また、救命ボートが定員の半数しか搭載されていなかった理由についても、映画では「景観を損ねないため」という趣旨で語られますが、実際には経費削減が主な理由だったという指摘があります。一方で、海に投げ出された人々を救助に向かったボートがあったという描写は史実で、実際にロウエ五等航海士のボートが救助に向かっています。
つまり『タイタニック』は、「事故の大枠は史実に忠実、中心のラブストーリーは完全な創作、そしてその中間に、実在の人物が創作的に脚色されたグレーゾーンがある」という、三層構造の作品だと考えるのが正確なようです。

