①「この役は私のもの」――ロビーが自ら掴みにいった役
『バビロン』のネリー・ラロイという役について語るとき、まず触れておきたいのが、マーゴット・ロビー自身の食いつき方です。
脚本を初めて読んだとき、ロビーはこの役を絶対にやると強く思ったといいます。その熱意はかなりのもので、本人いわく所属チームが少し心配したほどだったそうです。役を掴み取ろうとする一心不乱さは、劇中でチャンスに食らいついていくネリーの姿と、どこか重なって見えます。
さらにロビーは、ネリーについてこれまでにないほど親近感のある役だと語り、「今までで最も誇れる仕事」と表現しています。共演したブラッド・ピットも、彼女の自然体ぶりを称えていたそうです。数々の話題作に出演してきた彼女が、キャリアの中でここまで踏み込んだ言い方をするのは珍しいことだと言えそうです。

②役を理解する鍵になった、実在女優クララ・ボウの生い立ち
ネリーというキャラクターには複数の実在女優が参考にされていますが、モデルとして大部分を占めたのがクララ・ボウです。1920年代に創設されたアカデミー賞の第1回作品賞を受賞した『つばさ』にも出演し、サイレント映画時代最大のセックス・シンボルとして愛された女優でした。
ロビーがネリーという役を理解する上で大きな助けになったのが、このボウの壮絶な生い立ちだったといいます。ボウの両親は、すでに二人の子どもを亡くしていて彼女も生き長らえないと思っていたため、出生証明書すら取得していなかった。ロビーはそれを知ったとき、この地球で過ごす日々がいつ終わってもおかしくないと感じていたからこそ、彼女は毎日を全力で生きたのだろうと想像できるようになった、という趣旨のことを語っています。

下着をつけず、デニムのサロペット姿で弾けるネリーの印象的なカットも、実際にボウが同じような装いで過ごしていたことで知られています。外見の再現だけでなく、「明日がないかもしれない」という切迫感を演技の芯に据えたことが、あの荒々しくも痛々しいネリー像を成立させたのだと考えられます。
③ハリウッドの浮沈を演じた女優が、今フランチャイズの主役に立とうとしている
ここからは、2026年の今だからこそ見えてくる話です。
『バビロン』でロビーが演じたネリーは、時代の変化に飲み込まれ、栄光の頂点から転落していく女優でした。映画そのものが、ハリウッドという場所の残酷さと、それでも人が映画に惹きつけられ続けることを描いた作品です。
その映画から数年後の現在、ロビー自身は『パイレーツ・オブ・カリビアン』新作で、新たな主人公を演じる方向で名前が挙がっていると報じられています。ジャック・スパロウを脇に回し、シリーズの軸足を新主人公へ移すという構想です。興行収入45億ドル超のシリーズの看板を、女性主人公が引き継ぐという展開。この企画自体は2020年から動いていたものの一度立ち消えになり、それでも消えずに残り続けてきたものです。
サイレントからトーキーへの転換期に取り残された女優を演じた俳優が、現実のハリウッドでは、長年男性スターが担ってきた大型フランチャイズの主役を引き受けようとしている。『バビロン』を今あらためて観ると、ネリーというキャラクターの痛切さが、少し違った角度から見えてくるかもしれません。




